ミュージカル「生きる」を観て。(内容に触れています。ネタバレ注意)

日本映画で好きな作品をあげるとしたら、必ず「生きる」は上位に入る作品。
宣伝ポスターの暗い絵からは想像ができない、心温まる衝撃的に感動した作品だ。
そんな「生きる」が舞台に。しかもミュージカルになると聞いて、絶対に観に行きたい!と期待感でいっぱいだった。
あの「生きる」を舞台にすること自体、難しい挑戦ながら、ミュージカルにするとは、作品タイトルと同じであるテーマ「生きる」を表現するためにもとてもいいアイデアだと思った。しかも主演が鹿賀丈史と、市村正親。豪華キャストにますます期待が募るばかり。

そして観た感想は・・・ひと言“もったいない”だ。

残念だった理由

音楽がよくなかった。そして所々の演出もよくなかった。
ミュージカルにとって大切な音楽が私には殆ど響いてこない。
グラミー賞受賞経験もある外国人作曲家で、父親が映画「生きる」のファンだったようだが、日本人作曲家にした方が「生きる」の作風にはしっくりきたのではと感じた。

天真爛漫な小田切とよのキャラ設定にブレを感じた。
渡辺がキラキラ生きる彼女に傾倒していく様子が切ないのに、イマイチ伝わってこない。

陳情する主婦たちのセリフが多いのも気になった。
特に渡辺のお葬式シーン。言葉もなくお焼香に訪れる彼女たちの啜り哭く姿は映画ではとても重要なシーン。まったく同じ効果を狙った演出は映画と舞台の違いもあり難しいのかもしれないが、あのシーンはもっと大切に演出して欲しかった。

そして何より、渡辺寛治。主人公なのに存在が希薄だった。
元々映画でも、主人公を渡辺を演じた志村喬は覚醒するまでは、ボソボソと話し、覇気もない役柄。しかし癌だと分かってからの渡辺(志村喬)はひどく落ち込み、自暴自棄になりそして覚醒していく。その姿が気味が悪いほどの迫力で、目が血走りながら無心で一つの目的に向かう姿が「生きる」と言う題材にとてもマッチし、心をギュッと掴まれた。
しかし、舞台ではその渡辺の「生きる」姿をそこまで感じることが出来なかった。

個人的に特に改良すべきと感じた渡辺と小田切とよの関係性の描きかただ。
生きている証であるあっけらかんとした小田切とよと、絶望の縁の渡辺との対比が面白い。
しかし本作では、全体的に悲壮感が出すぎだ。特に二人がヤクザに襲われるシーンが、真面目でシリアス過ぎる。二人とも同じレベルで危機に見舞われることで、生と死の対比が崩れていた。
喧嘩や騒動のシーンでは、例えば吉本新喜劇くらいぶっ飛んだコメディタッチの演出(特にヤクザのシーン等)にしてみるとか。そうすることで暗くなり過ぎない。
そしてやっぱり楽曲。日本人の作曲家による、琴線に触れるミュージカルナンバーで、哀愁ある朴訥とした渡辺寛治の姿が際立ち、見え隠れする渡辺の熱い想いに胸を打たれる。
そして渡辺の死、最後に感動のゴンドラの唄でエンディングを向かえる。
ようやく”生きる”を観て、”人生、生きなおそう!”という気持ちになるのだ。

本当は、映画の感動をミュージカル「生きる」でも味わえたはずと、残念に思う。
映画「生きる」をミュージカルにという着想は大歓迎。だから再演では大改良を望む。

 

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